専門医インタビュー
クローン病に挑む

消化器内科 (福岡県筑紫野市)
教授松井 敏幸先生
【略歴】
| 1975年 | 九州大学医学部卒業 |
| 九州大学医学部 第二内科入局 | |
| 1982年 | 松山赤十字病院 消化器科 副部長 |
| 1983年 | 佐田病院 胃腸科 部長 |
| 1984年 | 九州大学 医学部 第二内科 助手 |
| 1985年 | JICA専門家として北京・中日友好医院へ派遣 |
| 1990年 | 福岡大学筑紫病院 消化器科 助教授 |
| 1998年 | 福岡大学筑紫病院 消化器科 診療部長 |
| 英国オックスフォード大学留学 | |
| 2005年 | 福岡大学筑紫病院 消化器科 部長 |
| 医療情報部長兼任 | |
| 2005年10月 | 福岡大学筑紫病院 消化器科 教授 |
| (2010年10月診療科名変更により福岡大学筑紫病院 消化器内科 教授) |
九州の中心地に位置し、他県からも1時間ほどで通院できる福岡大学筑紫病院の消化器内科教授、松井敏幸先生にお話を伺いました。
●内科・外科が密接に連携。受診したその日のうちに重症度を見極め、診療方針を決定。
貴施設のクローン病患者さんの状況を教えてください。

1985年の開院以来、当科のIBD患者数は増え続けており、現在、定期的にフォローアップしているIBD患者さんは約700名で、うちクローン病患者さんは約380名(平均年齢38.4歳、罹病期間14.9年)(表1)と過半数を占めます。潰瘍性大腸炎の患者さんに比べ、クローン病患者さんが多いことが当科の1つの特徴でもあります。
福岡大学筑紫病院(2009年8月-2010年7月)
| 患者数 | 378 | |||
|---|---|---|---|---|
| 年齢(歳) | 38.4 | |||
| 男女比(M/F) | 244/134 | |||
| 罹病期間(年) | 14.9 | |||
| 病型 | 小腸型 小腸大腸型 大腸型 |
149 177 47 |
||
| 活動度 | 高度 中等度 低度 |
43 128 195 |
||
| 代表的なIOIBD値 (10点満点で測る 炎症活動性指標) |
6< 4~5 2~3 0~1 |
10 33 128 195 |
||
| 合併症 | 狭窄 肛門周囲瘻 腸管皮膚瘻 内瘻 膿瘍・穿孔 その他 なし |
104 21 4 20 13 12 234 |
(28%) (6%) (1%) (5%) (3%) (3%) (62%) |
|
当科初診のクローン病患者さんは年間20~30名ほどで、大半が他院でクローン病と診断され、当院に紹介いただいたり、転居に伴い当科に紹介受診となっているケースです。
また、診療圏としては、福岡県内から来られる患者さんが7割ですが、当院は交通が集中している場所にあり、他県からも1時間くらいで来られるため、佐賀県からの患者さんも多く、大分、熊本、長崎県からも来られています。
診療体制はどのようになっていますか。
現在、当科では、クローン病の専門外来は設けていません。ただし、月曜日から土曜日まで毎日、クローン病の診療ができるように、外来にはクローン病を含むIBDの専門医を1人は配置しています。消化器内科のスタッフは約10名おり、うち私を含む7~8名がローテーションでクローン病の外来診療にあたっています。入院に関しては、クローン病はいつ何時、腸閉塞などの重篤な合併症を起こし急変するかわかりませんので、24時間いつでも対応できる体制を整えています。
クローン病と診断がついてない患者さんは、まず、内科を受診していただきます。肛門の外科的な合併症などは、緊急に外科を受診していただくことはありますが、多くは、まず内科を受診してから、外科を併診していただきます。
福岡県内からの患者さんが多いと言っても、やはり遠方から来て頂いている患者さんも多いので、診断を受けて、その日に治療方針が立てられるようにしています。 たとえば、大腸内視鏡などの特殊な検査は後日になりますが、腹部超音波検査、食道胃十二指腸X線検査、食道胃十二指腸内視鏡検査など、内科での検査もその日のうちに大体終わらせることができ、肛門が悪い患者さんも、内科と外科の診断を受けて、同時に治療方針が立てられます。
一連の診療の流れのなかで特筆すべき点は、当科を受診した同日、外科も受診し、両科で検討した上で、一両日中に治療方針を提案していることだと思います。
消化器内科と外科でカンファレンスを開催されるのですか。
手術に関しては、クローン病に限らず、毎週水曜日に当科と外科でカンファレンスを開催しています。ただし、先述したクローン病患者さん個々の治療方針は、スピーディーに決定するため、あえて両科が話し合う時間を設けず、担当医師同士が適宜、話し合い、IBDを専門としている私を含めた消化器内科2名と外科2名の医師の意見を踏まえた上で決定するようにしています。
このように当院はIBDセンター形式こそとっていませんが、消化器内科と外科が密接に連携し、スピーディーに適切に対応するという診療体制を構築しています。
●重症なら、まず短期間入院を。基本的に、重症度に応じた治療を行う。
治療はどのように進められるのですか。

重症度が決定したら、軽症の場合は、外来にて治療をスタートさせます。一方、中等症~重症、とくに重症の場合は、検査入院を兼ねて、あるいは治療を開始するために、まず数日間程度の短期入院をしていただくようにしています。
また、患者さんに、この入院期間を利用して、看護師や管理栄養士、時には同時期に入院しているほかのクローン病患者さんから、日常生活の注意点や工夫についてさまざまなアドバイスを受けていただきます。そのことを参考にご自身の治療に対するモチベーションを高めたり、注意点や工夫をうまくご自身の生活のなかに取り入れてもらったりして、今後、ひとりで抱え込むことのない前向きな生活を送っていただきたいと思っています。
治療方針はどうされていますか。
当科では、基本的に、重症度に応じ、5-ASA製剤と栄養療法を第一選択として、ステロイド、免疫調整剤、それから抗TNFα抗体製剤と順に使用していくといった治療を行っています。なかでも、栄養療法はクローン病治療のベースになるものだと考えており、ほぼ全例に、管理栄養士のサポートのもと、厳しい食物制限ではなく、マイルドな栄養療法を何らかのかたちで実践してもらうようにしています。
●病気が進行してしまう前に抗TNFα抗体製剤を導入。入院も減少。
抗TNFα抗体製剤はどのような患者さんに適応されていますか。

抗TNFα抗体製剤は、重症度が高い患者さんのほか、今まさに炎症が強いような患者さんや肛門病変が治りにくい患者さん、今の治療が効かない患者さん、今の治療では高率に合併症を起こしそうな患者さん、あるいは手術が必要になりそうな患者さんなどを早め(数ヵ月ぐらい)に見極めて、すみやかに導入するようにしています。
抗TNFα抗体製剤導入にあたっては、まず患者さんに、合併症や副作用があることをお話した上で、それらを勘案しても早期に使用を開始したほうが良いことを説明します。その投与は、全例、初回は入院にて行うようにし、その後は外来の点滴室で行っています。寛解導入後は維持療法に移行し、可能な限り長期にわたり、抗TNFα抗体製剤の投与を続けています。
ただし、抗TNFα抗体製剤は、強い狭窄があれば使用しませんし、結核を含む感染症や製剤の抗原性に伴う投与時反応(過敏症)などの副作用によっても使用できないことがあります。実際、当科で、抗TNFα抗体製剤を使用しているクローン病患者さんは3割程度(表2)で、現在までに累計250名程度に抗TNFα抗体製剤を投与し、その平均投与期間は2.5年です。
福岡大学筑紫病院(患者数=378)入院・外来 (2009年8月-2010年7月/1年間)
| 入院 | 114 | (30%) | 栄養療法 | 218 | (58%) |
|---|---|---|---|---|---|
| ステロイド剤 | 32 | (8%) | 在宅経腸栄養 ≧900Kcal 900~300Kcal |
86 66 |
(23%) (17%) |
| アザチオプリン | 131 | (35%) | 在宅静脈栄養 | 8 | (2%) |
| メサラジン製剤 | 284 | (75%) | レミケード使用 | 120 | (32%) |
| 内視鏡的 拡張術 |
27 | (7%) | 外科手術 | 57 | (15%) |
抗TNFα抗体製剤導入により、クローン病診療は変わりましたか。
これまでの治療に抵抗性を示し、重度の潰瘍があり、もし抗TNFα抗体製剤がなければ、何度も手術を繰り返さなければならなかっただろうと考えられる患者さんが何人となくいらっしゃいます。抗TNFα抗体製剤導入後、入院患者さんは明らかに減りました。以前は病棟に常に15名ほどが入院されていましたが、今は7~8名ぐらいで、さらに減る傾向にあります。その一方、外来の患者さんが爆発的に増えています。つまり、外来だけでコントロールできるクローン病患者さんが増えたというわけです。
その結果、患者さんのQOL(生活の質)が非常に向上したと感じています。以前ですと、長期に絶食して、入院しなければならなかったので、その間に仕事を失ったり、そのせいで仕事につけなかったりといった患者さんが少なからずおられました。しかし、最近は、そういうケースは少なくなりました。
最後に今後の展望をお聞かせください。
抗TNFα抗体製剤により、従来の治療法では考えられなかった粘膜レベルでの治癒が期待できるようになりました。その一方で、大きくて、ひどい潰瘍の治癒後は、瘢痕化による狭窄がみられるようになりました。前述したように狭窄がひどければ、抗TNFα抗体製剤を使用できなくなりますので、私たちは腸管狭窄に対して、そこを広げるための内視鏡治療を積極的に実施しています。
クローン病の手術の主な原因は小腸狭窄です。実際、クローン病で小腸手術をした人の8割が小腸狭窄です。そこで私たちは、小腸狭窄に対するいわゆる狭窄形成術に代わるような内視鏡治療の施術施設として、他施設をリードしてきました。今後は、そのさらなる手技の工夫と全国的な普及に努めたいと考えています。
内視鏡治療は手術と異なり、侵襲性の少なさはもちろん、外来や非常に短期間の入院で施行できます。抗TNFα抗体製剤で粘膜を治癒させ、潰瘍が瘢痕化し、狭窄したところは内視鏡治療で広げて、抗TNFα抗体製剤を投与していくという一連の治療が外来でできるようになれば、患者さんにとって非常に大きなメリットになります。
また、日本では、クローン病に対する抗TNFα抗体製剤の長期治療の有効性、安全性に関する研究発表が少ないので、そこに関しても力を注ぎ、抗TNFα抗体製剤の効果を減弱させない、あるいは手術を回避するためにどのように使用するかなどを明らかにしていきたいと思っています。
私たちは、病気により、患者さんの生活が大きく変わってしまわないように、外来のみで終始できる負担の少ない治療をめざしています。最近は、抗TNFα抗体製剤や内視鏡治療の登場により、それが随分可能になってきたように思います。
また、このようにクローン病に対する治療の選択肢は増えてきています。私たちは、クローン病診療のガイドラインや患者さん向けの冊子やハンドブック※を作成したりしています。患者さん自身にもさまざまな治療法について、その効果と限界、治療法の相互作用などを含めて理解を深めていただき、その上で、私たちと一緒に、患者さんにとって最適な治療法を選んでいただきたいと思っています。
患者さんだけ、私たちだけが、がんばるのではなく、一緒になってがんばっていきましょう。

出版:南江堂/編集:日本消化器病学会
