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専門医インタビュー

クローン病に挑む

伊藤裕章先生
医療法人錦秀会
インフュージョンクリニック(大阪府大阪市)
院長伊藤 裕章先生
「病気だから」と、我慢しないで、あきらめないで。効果のある治療で、充実した日々を過ごせるように、一緒にがんばっていきましょう。

【略歴】
1980年大阪大学医学部卒業。92年同内科学第三講座助手。94年米国スタンフォード大学免疫リウマチ学教室ポストドクトラルフェロー。03年大阪大学大学院医学系研究科分子病態内科講座講師。06年田附興風会 医学研究所北野病院消化器センター部長。10年より錦秀会 インフュージョンクリニック院長。
【学会】
日本消化器病学会認定専門医・近畿支部評議員・総会・大会評議員、日本消化器内視鏡学会指導医・近畿支部評議員、日本内科学会認定内科医・近畿支部評議員、日本消化管学会評議員

どこからでもアクセス至便な大阪の中心地、北区堂山にあるインフュージョンクリニックの院長、伊藤先生にお話を伺いました。

●日本初のインフュージョン(点滴)治療を中心に行うクリニックで、炎症性腸疾患(IBD)、リウマチの患者さんを専門的に診療

日本で初めてのインフュージョンクリニックとのことで、その開院の経緯を教えてください。
インフュージョンクリニック

現在、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)でも、リウマチでも、抗TNFα抗体製剤などの生物学的製剤を中心とした治療により、すみやかな寛解導入と長期にわたる寛解維持を得て、患者さんの生活の質(QOL)を飛躍的に向上させることができるようになりました。

生物学的製剤の多くは点滴投与であり、日本では主に、病院の外来化学療法室と呼ばれる治療室で投与が行われています。この外来化学療法室とは、主に抗がん剤治療を行うために設けられた専門の治療室であり、そこにいるスタッフは抗がん剤治療の専門家が多くをしめています。治療を受けにくる患者さんも、IBDやリウマチの患者さんだけでなく、さまざまな疾患の患者さんが同じ部屋で治療を受けるため、少し違和感を覚える患者さんもいると聞いておりましたし、私も抗TNFα抗体製剤をはじめとする生物学的製剤治療と、抗がん剤治療は、本来分けて投与されることがベストであると考えています。

実際、欧米の病院では、外来化学療法室のほかに、インフュージョンセンターというIBDやリウマチに対する抗TNFα抗体製剤などの生物学的製剤の点滴治療を行う専門の治療室があります。また、町中や郊外には、インフュージョンセンターと同様の機能を有したインフュージョンクリニックがあります。

受付

受付
エレベーターを降りると、まるで高級ホテルのフロントのような受付が。クリニックだとは思えない内装。

そこで、日本でも、これからは、抗TNFα抗体製剤などの生物学的製剤治療がますます本格化することを考え、そのモデルケースとして、点滴治療を中心に行いながらIBDとリウマチの患者さんを専門に診るクリニックを開院することにしました。


●近隣の専門クリニックと連携して利便性を、総合病院のサテライトクリニックとして安心を患者さんに提供

クリニックの特徴を教えてください。
伊藤裕章先生

当クリニックは、JR線、私鉄(阪神線、阪急線)、地下鉄各路線の駅から、徒歩数分でアクセスできる便利なところにあります。通院される患者さんの負担をできるかぎり軽減したいと考えて大阪の中心地にクリニックを開設しました。

また、クローン病の患者さんは若い方が多く、学校や会社を休まなくてもよい土曜日の診察を希望される方が多いため、開院当初、休診だった土曜の午後も診察日にさせていただきました。近い将来、日・祝日を診察日にすることを考える時がくるかもしれませんね(笑)。


インフュージョンクリニックの治療体制について教えてください。

IBDもリウマチも慢性疾患であるため、長い治療経過において内視鏡検査や外科的治療などが必要になることがあり、この場合は、総合病院との連携は必須です。

当クリニックは、大阪府下に6,000床を有する医療法人錦秀会に属し、阪和住吉総合病院のサテライト施設として、内視鏡など詳しい検査を行う場合や外科的治療が必要だと判断されたケースなどに、いつでも連携できる体制を整えています。

また、まれに生物学的製剤の投与時に、体に違和感を覚える投与時反応と呼ばれる副作用が発生する場合があります。私は、これまでにクローン病だけでも3,000件を超える生物学的製剤の投与経験があり、投与時反応に対する処置や予防のノウハウを蓄積してきました。当クリニックでは、ほぼすべての投与時反応を的確にマネジメントできると自負しており、患者さんには安心して投与を受けていただく万全の体制を確立しております。

●クローン病に対してはトップダウン療法で、早期寛解導入・長期寛解維持。我慢しない、あきらめない生活を実現し生き生きとした毎日を。

では、クローン病に対して、どのような方針で治療されているのですか。
伊藤裕章先生

クローン病は、同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎と違い、長期経過において病態が徐々に進行し重症化することが問題です。とくに、狭窄や瘻孔などの合併症が発現しますと、治療に苦渋することもあります。

潰瘍性大腸炎の場合、約半数は軽症で、副作用が少なくマイルドな5-ASA製剤と呼ばれる経口薬剤のみで寛解導入・維持することができます。そのため、とくに診断時に軽症の場合などでは、最初にマイルドな薬剤を使用し、治療に効果がみられなければ徐々に強い薬剤にしていく"ステップアップ"療法で治療を行います。

しかし、クローン病の場合、進行性の疾患であり、徐々に重症化することを考えるとステップアップ療法で治療を進めるわけにはいきません。効果をみながら治療をステップアップさせていると、寛解導入までに時間がかかってしまい、その間に、炎症によって狭窄や瘻孔が発現し悪化する可能性もあります。したがって、クローン病の治療は、既存治療の効果が不十分と判断された場合、すみやかに寛解導入できる最も効果的な治療を早期に開始する"トップダウン"療法が原則となります。具体的には、抗TNFα抗体製剤による治療です。

当クリニックでは、現在、約300名のクローン病患者さんを定期的にフォローアップしていますが、ほぼ全例が、トップダウン療法で、抗TNFα抗体製剤による治療を行っております。

抗TNFα抗体製剤による治療の実際を具体的に教えてください。
インフュージョンルーム

インフュージョンルーム
グリーンを基調とした明るく広々とした室内に、イエローの点滴チェアが5台。いずれにも電動式の点滴ポンプ、モニター、ワンセグ付きDVDプレーヤー、ピロースピーカーがついている。このほかにリウマチ診療を行っていない時間帯には、診療ベッドを使って点滴を行う(同時に最大6名の点滴が可能)。

患者さんに抗TNFα抗体製剤によるトップダウン療法の治療について丁寧に説明させていただき、治療方針に理解が得られた患者さんには、まず結核スクリーニング(結核菌に感染していないか調べる検査)などの必要な検査を行います。

点滴の流れとしては、まず私が患者さんを診察し、その情報を含めて、電子カルテ上で、看護師に"点滴の指示出し"を行います。看護師はその指示をみて点滴を行います。診察室とインフュージョンルームは目と鼻の先にありますが、口頭や簡単なメモ書きではなく、システムとして、きちんと"点滴の指示出し"をすることが、安全に点滴を行うための基本だと考えているからです。

点滴は最大6名の患者さんに同時に行うことが可能で、4名の看護師が各々の点滴チェアに設置されたモニターで、脈拍、血圧、酸素飽和度などをチェックしながら安全性の確保に努めています。看護師4名中2名は、以前から、私と一緒に今日まで、抗TNFα抗体製剤をクローン病患者さんに投与してきた、いわゆる抗TNFα抗体製剤に造詣の深いエキスパートナースです。私の指示のその先を読み、目の前の患者さんに最も安全に抗TNFα抗体製剤を投与するために、自ら動いてくれています。

迅速血液検査機器

迅速血液検査機器
クローン病では、炎症の指標であるCRPを陰性にコントロールすることが大切。点滴開始前に末梢から血液を取り出し、その場で迅速に血液検査を実施。その結果を治療に反映させている。

また、点滴はすべて電動ポンプを用いて行い、初回は、2時間かけて慎重に抗TNFα抗体製剤を投与いたします。初回点滴で何か投与中の違和感を認めた場合、2回目以降は3時間かけてゆっくりと点滴するようにします。

実際には、多くのクローン病の患者さんが診察と点滴を含め、約2時間で治療を終えるというスケジュールで抗TNFα抗体療法を受けられています。定期フォロー中の患者さんであれば、看護師が、前日の昼頃から、翌日に予約が入っている患者さんの点滴セットを準備しているので、スムーズに点滴を開始することができます。

抗TNFα抗体製剤は、初めて点滴した後、2週間後、6週間後に行いますが、それ以後は8週間おきに点滴します。2ヵ月に1度、2時間だけ、当クリニックで抗TNFα抗体製剤の点滴を受けるだけで、寛解維持ができ、病気だからといって何かを我慢したり、あきらめたりしないで生き生きとした生活を送ることができます。

診察室 インフュージョンセンター キャビネット

イメージカラーはグリーン
診察室やインフュージョンルームはもちろん、キャビネットまでグリーンに統一。クリニックとしては珍しい明るいグリーンが心を穏やかにする。

最後に今後の展望をお聞かせください。

私が大阪大学病院に勤務していた当時から診てきた患者さんは、抗TNFα抗体製剤の点滴治療を受けて、もうすでに9年目になりますが、2ヵ月に1度の通院で、家族や友人と旅行や食事を楽しみ、精力的に仕事もこなされています。

とはいえ、やはり2ヵ月に1度でも通院が必要になります。リウマチ領域では、症状が完全に安定している一部の患者さんで、抗TNFα抗体製剤を含む薬剤を中止できる例もでてきていると聞いており、クローン病でもある基準を満たすことによって抗TNFα抗体製剤を中止できるということがわかれば、患者さんのQOLはさらに向上するものと考えています。"どうすれば薬剤フリーにできるのか"ここを明らかにしていくことが今後の課題でもあり、展望でもあります。

伊藤先生から患者さんへのメッセージ

クローン病には、今のところ、完全に治癒させることができる治療法はありません。しかし、今は、昔と違って、クローン病をすみやかに寛解導入し、長期にわたり寛解維持する有効な治療薬である抗TNFα抗体製剤があります。病気だからといって、家族や友達と一緒に食事や旅行を楽しむことや、学業、仕事、妊娠・出産も、我慢したり、あきらめたりすることはありません。

私たちは抗TNFα抗体製剤などの有効な治療薬をうまく使って、患者さんが我慢しない、あきらめない生活を送ることができるようサポートすることが使命だと思っています。患者さんのやりたいことがあれば、私たちに遠慮せず伝えてください。どうすればそれがかなうのかを含めて最適な治療を、私たちと一緒に考え、一緒にがんばっていきましょう。

インフュージョンクリニックのスタッフ
(2010年9月現在)